2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

別れに最適な木曜日

失恋に適した日があるとするなら、木曜日だろうと思う。木曜日の夕方、曇り空の街並には何かの兆候のように雨が降り出し、ろくに天気予報も見ないまま家を出た僕の頭を、肩をじわりじわりと濡らしていくと、やがてそれが合図であったかのように彼女はさよな…

アバウト ア ライト

0時を過ぎると、シンデレラの魔法は解ける。港町を見渡せる公園から見える夜景を目の前に、ふとそうしたことを思い出す。時刻は23時。 深夜の中華街は賑やかであったであろう空気を微塵も残さない。最小限に抑えられた照明は深夜に至ってもなお営業されてい…

真昼の夢とノンフィクションメーカー

ファミリィレストランのテーブルに妙齢を過ぎたであろう女性たちが5人、集団を形成している。彼女たちの話し方は独特だ。発言者の声は途中途中で遮られ、それが非難されることもない。断続的な内容であっても彼女たちにはさほど影響しないようで、それは恐ら…

子供と大人

賢いということは子供であるということ。成長することが賢さを生み出すのではなく、むしろ大人になるにつれてひとは賢さを失う。安物の酒を飲みながら読んでいたにも関わらず、酔い気が醒めてしまう言葉の連続。いままでのどんな休日よりも刺激的な知識の貯…

花火

今日は淀川で花火大会が行われるということで、これだけは近場であったことを幸運に思わずにはいられないのだけど、嬉々として家を出た。確か昨年はそれほど側には近づかずに、沿道の側で建物の後ろで咲く花火を見ていたと思う。今年はより近づいて、いっそ…

施しは指先から

作者は悩んでいた。今月の生活は厳しく、貯金を食いつぶし、来月の生活の見通しが立たないところにまできていた。売れない絵本作家。作品がまとまらない。作者は悩んでいた。 ふと唐突に、まるで玄関から踏み出す際に忘れ物があることを思い出すかのように、…

非日常的タクシー

本来であれば、こうした話には信憑性を伴わせるためにある程度の脚色はあるにせよ「事実」がとかく問われがちだ。けれど、どのような解釈がなされようともこの話はただひとつの「物語」であり、脚色のない「事実」だということを先に申し上げておく。ともす…

いつもの季節で逢いましょう

「冷やし中華始めました」という文字が、空腹の僕の目に飛び込むと、ああ、もうそんな時期かと思う。そう、23度目の「冷やし中華始めました」はやはり23度目も同様に、唐突に始まり予告もなく終わるだろう。 冷やし中華を扱う店の年間スケジュールには「冷や…

誰かが誰かの審判

エアコンの効いた駅近くの喫茶店。注文されたアイスコーヒーは、日に照らされた僕らが流す汗のようにじんわりと結露を作る。テーブルの上を滑らせ、引きずられるようにして出来た少し歪な図形を紙ナプキンで拭う。 最近また書いてたりするんだろう、と友人が…

日常とフィクション

スーパーマーケットに面した道路の歩行者用信号機が点滅を繰り返し、まさに切り替わらんとするころふたりの女の子がわっと駆け出していく。背格好がひどく似ていて僕は双子であるかもしれないと想像する。一方がもう一方の片手を引っ張るようにしている。す…

検索された夏

夏の始まりは不器用な着こなしの僕を少しだけいらつかせる。特有の湿度と暑さはコンクリートの上、うだるような空気をたゆたわせる。ポケットの片方を重たくさせる携帯電話を手探りで取り出すと、ガラス面に付着した手汗を拭う。太陽の光に照らされた画面は…

サウンドタイピング

内線電話がけたたましく鳴る。雑な衝撃音が届かぬようそっと手に取り、申し訳程度の—しかし何かと重要視される—挨拶を口にする。受話音量が最適であれば良いのだけれど。依頼内容を都度反復し、今すぐに、と返答する。今すぐとは現時点からどの程度の時間ま…

祭り

祭り囃子の音が閉め切られた窓のすぐ側から聞こえてくるほど近い場所から、酔いどれたままに打ち込んでみる。こういうときは面白いか面白くないかの二極化だろうとは思う。けれど、折角だから特に考えもしないまま 瞬間の思いを言葉にしてみるのは「筆者とし…

目に映る風景イコール

夜8時の定食屋には温かい夕食を待ち望む人たちが集まる。TVもラジオもない、電子音化されたいつかのヒットチャートだけが申し訳程度に流れる場所。対面がセパレートされたカウンターといくつかのテーブル席には、家族連れや学生、仕事終わりのOLや疲れきっ…

確かに存在した記録とおぼろげながら残る記憶

環状線の電車に乗り込むたびに、ふと昔のことを思い出す。それがいつのことだったかを確かには思い出せないものの、少なくともそれほど遠い頃の記憶ではないだろう。「カンジョウセン」とはつまり「感情線」のことなのだろうと解釈していた。文学的な表現か…