目に映る風景イコール

夜8時の定食屋には温かい夕食を待ち望む人たちが集まる。TVもラジオもない、電子音化されたいつかのヒットチャートだけが申し訳程度に流れる場所。対面がセパレートされたカウンターといくつかのテーブル席には、家族連れや学生、仕事終わりのOLや疲れきった顔でお茶を催促する中年が散り散りに座る。和気藹々と話に花を咲かせるグループや、注文の料理が出てくるまでフリックとタップ入力を繰り返し、液晶画面に指を滑らせる人、背表紙が擦れてタイトルが不鮮明な古本に読みふける老人、電話先の相手に謝罪する若い社会人がいる一方で、職場の人間関係を通話口に愚痴る巻き髪の女の子。種々雑多のサラダボウル。

食事が済んだ後もテーブルから動かないカップルは、向かい合い無言のままスマートフォンを操作する。流れてくる軽快な電子音からそれがゲームであることを容易に想像できる。会話のないふたりきりの空間。間には食べ残された野菜の残骸と割り目の雑な割り箸。湯気の立たない茶碗とスマートフォン。ハイスコアが繋ぐひとところの愛情と安心感。

斜向いでは食事することに興味を示さない男の子が、箸を振り回しながら戦隊ヒーローを真似てイスの上で飛び跳ねる。会話に夢中な両親は気にもかけない。根気よく早朝に備えて毎日を過ごした子供たちだけに見えたヒーローたちの活躍も、HDDに録画され見逃されることはなくなった。24時間好きなときに好きな場所で世界を救う。あなたの生活に合わせた世界平和。

そんな心の居心地の悪さ全てを飲み込んでしまう、温かい夕食をひたすら待ち望む。白いシャツにソースが飛びかからぬよう神経質になる僕が。