真昼の夢とノンフィクションメーカー

ファミリィレストランのテーブルに妙齢を過ぎたであろう女性たちが5人、集団を形成している。彼女たちの話し方は独特だ。発言者の声は途中途中で遮られ、それが非難されることもない。断続的な内容であっても彼女たちにはさほど影響しないようで、それは恐らく理解されることではなく「発言した」という事実を上塗りし続けることを「会話」と定義しているからだろうと思う。鉄板がお熱いのでお気をつけください、と店員が僕の目の前にドリアを差し出す。スプーンでひと掬いし冷ますようにしていたころ、不意に誰かが語り始めた。僕は聴衆のひとりに紛れてそっと耳を傾ける。

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私の友達がね、そう彼女は電車に揺られて旅をしていたの。旅先は国内ね、どこだったかは覚えていないんだけど、とにかくそのときはひとりきりだったの。それで、偶然隣り合った席に男の人が座ってね、なんとはなしに、でも少しだけ気になるくらいだったのかもしれない。あのひと、いろんなところを覚えていたから。そうしたら、彼から話しかけられたの、どちらへであるとか、旅行は良いですね、なんていう世間話のようなもの。そうしてしばらく話してしまうと、彼は途中の駅で降りてしまったの。ああ、一期一会みたいなものだ、と彼女は思ったんだって話してた。

それから1週間後、海外行きの飛行機のリクライニングに手こずっていたとき、隣の座席に腰を下ろしかけた人から声をかけられたの。大丈夫ですか、なんてね。振り返るとあの時の彼がいたの。偶然乗り合わせた電車といい飛行機といい、これは運命じゃないのかなってふたりして話したそう。以前よりも会話の内容はより親密になったけれど、そこから先へと進むことはなかった。きっとどこかお互いに疑うところがあったのかもしれない。飛行機が着陸して混雑する通路の中で簡単な別れの挨拶をした後、荷物待合室をぐるりと眺めたけれど、もう彼はいないようだった。

そんな話をしばらくしてから日本の友人に話したところ、彼女が驚いて言ったの、私、その人知っているかも、と。聞くと、仕事の関係でいくつかの取引先と交流する機会がその人にはあるらしくて、話を聞く限り「それらしい」人を思いついたんですって。聞くや否や電話である取引先の担当者にそういう人がいるか確認してもらったところ、やはり彼だった。もうふたりは疑うことなくそのまま結婚したの。それが先週のこと。

ねえ、だから私の言いたいことわかるでしょう。いつ何時どんな出会いがあるかなんて分からないの。だから、そうした運命をたぐり寄せるためには憮然とした表情を浮かべてはいけないの。そういう人のもとには運命は訪れないから。これは彼女の受売りなんだけどね。

ねえ、ドラマティックじゃない?

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時折零れる感嘆の声やため息がテーブルの上を漂う。彼女たちは恐らくそうした「運命的な出会い」に恋い焦がれているのだろう。非日常的であって思い描くドラマのようなシナリオ。主演女優である自分に降り掛かる「運命」という翻弄と刺激に満ちたドラマ。

憧れの対象がフィクションのような現実である限り、フィクションを描いては見知らぬ誰かの感動を呼び起こす。それはもちろん、人間以外の誰も行わない。

人間だけが醒めながら夢を見る。