アバウト ア ライト

0時を過ぎると、シンデレラの魔法は解ける。港町を見渡せる公園から見える夜景を目の前に、ふとそうしたことを思い出す。時刻は23時。

深夜の中華街は賑やかであったであろう空気を微塵も残さない。最小限に抑えられた照明は深夜に至ってもなお営業されている店だけを煌々と照らし出す。宵闇の中で不特定多数に示された明かりは、しかし道の名も知らぬものにとっての道しるべ、寄る辺となる。ともすれば異国の地に足を踏み入れたような錯覚に陥いり、景色を見ていながらその輪郭は曖昧なものになっていく。波長の長い赤色の光線は遠くからでもはっきりとそれと確認することができる。目に留まるものは限りなく赤。

中華街をひとしきり散策すると、まだ活力を失わない足はやがて坂道へ向かう。二日酔いに似たアルコールの残滓は踏み出す足先からじんわりと地面に染み込んで拡散する。途中に行く手を阻むようにしてそびえる樹は、コンクリートで丁寧に舗装された歩道のタイルを剥がしていた。根元はどこまで深く掘り下げられているのだろうか。見上げると高い場所から枝葉を空高くまで伸ばしていることが分かる。これと同じだけの根が地中に埋まっているのであれば、坂道のほとんどは木の根によって支えられているのかもしれない、と思う。

夜景を目の前にすると、その明かりの中で蠢くもの、静止したままで光を放つもの、発生源が定かでない音を鳴らすものがそれぞれに共存し、けれど干渉していないことに気づく。いずれの物質も人工的でありながら元は自然の産物であったもの。加工されることが自然でないという定義はどの程度まで通じるのだろう。いずれも大地から産出されたものであるというのに。そんなことをぼんやりと思う。背丈の高い建物は赤灯を規則的に明滅させる。やがて時計の針が0時を示すころ、この街一番の高さを誇るタワーが灯りを消し、一日の終わりを、見守る誰かに示した。