実直フライドポテト

結婚式に流す曲なんだけど、と言って彼女は前髪をそっと耳にかける。「私を泣かせてください」にしようと思うの。

いや、その歌は結婚式にはふさわしくないよ。どうして?どうしてって、そもそも、どういう意味の歌詞なのか分かっているの?いいえ、でも、すごく綺麗な曲でしょう?そうだけどさ、あれは苦しみから解放されたい、そう乞い願う歌なんだよ。

へえ、と言ってつまらなさそうにポテトをひとつ摘むと、指先で端の方から平たく潰していった。彼女はストローを噛む癖があるから、トレイの上、ドリンクに突き刺さるストローは携帯のアンテナ表記みたいな、特殊な形をしていることが多い。今はホットコーヒーを飲んでいるから、きっとその代用にされたのだろう。哀れ、ポテトの運命。

一生に一度の結婚なんだから、好きな歌流すのが良いでしょう?それはそうだけどさ。でも、知っているひとからすれば、とても違和感があると思うな。それはないよ、と彼女は眉間に皺を寄せながらも、少し口角を上げる。みんなスマホ片手にバシバシ写真撮りまくるだろうから、特別音楽にこだわりはないと思う。ほら、Facebookなんかに似たような写真がいろんなひとたちからアップされる、あれだよ。出席者アピール。

まあ、好きにしたら良いよ、と僕は半ば呆れながらハンバーガーに齧りつく。みじん切りにされたタマネギが「バイト募集」の広告、笑顔の女性の真上に零れた。